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いただいたコメントを基に小話を作ってみました。
色々とはっちゃけてますが、心の広い方だけどうぞ。
++++ 3分待てば ++++
凄まじい勢いで通りを走りぬけ、マリーはクライスの工房へ飛び込んだ。
「なんの騒ぎです。ノックもなしに人の工房に押し入るとは…不躾にもほどがあるのではないのですか?」
「そ…それ…どころ…じゃ…ない…のよ。お湯…お湯ある?」
ぜいぜいと息を切らしながら、マリーは真剣な表情でクライスに迫る。
通常こういった場合、要求されるのは水であってお湯ではない。
一般常識が遠く離れた要求に嫌な予感を抱きつつ、その迫力に圧されかけている己を立て直すように、クライスは眼鏡を押し上げた。
「沸かせばありますよ。なんです。ついにお湯を沸かせなくなるほど、台所が有り得ない惨状を呈するようになったのですか。まったく、片付けるという言葉をあなたは理解しているのですか」
ぶちぶちと言い出したクライスをマリーはきっと睨みつけた。
「違うわよっ。お湯くらい沸かせるわ。ただ、あんまり冷めると効かないと思って、あんたの工房にあるか聞いたのよ」
まるで話が見えない。
クライスはまじまじとマリーを見て、不愉快そうに眉を寄せた。
「お湯が何に効くのです。まるで意味がわかりません。もう少し順序だててお話しなさい。幾ら知能指数が低く、語彙不足のあなたでも、人並み程度に話す努力はすべきです」
「な…ちょ…どさくさに紛れてメチャクチャ言わないでよ。誰の知能指数が低いですって!!」
「あなたですよ。この工房には私とあなたしか居ないのですから、必然的にあなた以外に該当しないでしょう」
しれっと言うクライスに、マリーは拳を握り締めてブルブルと震わせる。
文句は言いたいが、適当な言葉が出て来ない。
「それでお湯を何に使うのです」
口を無意味に開閉するマリーに、クライスは詰まらなそうに問いかけた。
その言葉に本来の目的を思い出し、マリーはぽんと手を打つ。
「あんたに、かけるのよ」
「は?」
「だから、あんたにお湯をかけるの」
「…熱湯を?」
「うん」
「………マルローネさん、騎士隊の詰所に同行して貰いましょうか」
「はあ?なんでよ」
地を這うようなクライスの声音に、マリーが素っ頓狂な声を上げる。
そんなマリーに負けじと、クライスは声を張り上げた。
「もちろん、殺人未遂事件の犯人として突き出すのですよ。熱湯をかけるとは、どんな了見ですか?私を殺す気だとしか思えないのですが?」
「え?ええっ?!違うわよ。殺す気なんてないわよ」
「殺す気はなくとも、下手をすれば死ぬでしょう。良くても大火傷です」
「だから、そんな気ないって!だって、あんた、お湯をかけて3分待つと、クール&ドライからホット&ウェットな性格に変わるんでしょう」
大真面目に言い切られ、クライスは固まった。
マリーの言葉は耳に入ったが、脳がそれを理解することを拒んでいる。
じっと凝視したままのクライスの視線の先で、マリーは居心地悪そうに身じろぎをする。
「そのまま10分以上放置すると、くてくてに伸びて、やる気のないダラダラした性格になるって…」
クライスはのろのろと右手をマリーの額に当てる。
「熱はないようですね。誰に聞いたのか知りませんが、あなたは私を何だと思っているのですか」
「何って…クライス…」
それでは人間でも動物でもなく、まるでクライスというカテゴリーの生物が存在するようではないか、と秀才は冷ややかにマリーを見据えた。
「マルローネさん。私はれっきとした人間です。お湯をかけて3分待てば食べられる簡易食料ではないのですよ。あなたのその頭に詰まっているはずの脳みそは、どうやら消費期限を過ぎて腐敗しているようですね。いっその事、おが屑と中身を入れ替えたらいかがですか」
いつもの不機嫌そうな顔ではなく、すっかり無表情になったクライスに冷たい視線を送られ、本気で怒らせた、とマリーは身震いした。
もの凄い暴言を吐かれているが、今はそれに対するツッコミをするどころではない。
「あははは…そ、そうだよね。いや、あたしも有り得ないかなぁとは思ったんだけど。でも、ちょっと、ダグラス並に熱いあんたが見れるなら、た、試してみてもいいかなぁ…とか、魔が差しちゃってさ」
笑って誤魔化しながらそのまま後退さる。
「お…お邪魔しました~」
そのままマリーは脱兎の如く逃げ出すのだった。
絶対零度の視線を背後に感じながら、クライスならお湯すらも凍らすに違いない、とマリーはそんな事を考えるのだった。
~終了~
「クライスにお湯をかけて3分待つと、クール&ドライからホット&ウェットな性格に変わったりするのでしょうか」
という、素敵すぎるコメントをいただきました。
ホット&ウェットなクライス、見てみたいなぁ。
こんな見事な発想が出来るセンスが欲しいです。
素敵なコメントを下さっただけでなく、不躾なお願いにもかかわらず、掲載許可をくださり、本当にありがとうございました。
こんな管理人ですが、どうかこれからもよろしくお願いいたします。