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いきなり13日になってネタが思いつきました。
ああ、きっと、試食した塩キャラメルチョコが美味しかったせいね。
そんなわけで取りあえず、日記にVD小話を投下。
もの凄く急いで書いたので、色々と粗が目立ちます。ごめんなさい。
あんまりVDっぽくないかもしれないけど。
そういや、今週は世間様では3連休だったんですよね。
日曜はさすがに午後出勤したけど、休みなしはツライ・・・。
う~、今週は長いなぁ。
でも、18日はいよいよ旧暦の正月♪がんばるぞー
+++ショコラーデ+++
ザールブルグの街はこの日、甘い香りに包まれていた。
甘い、甘いお菓子の匂い。
けれど砂糖菓子のものとは違う独特な香り。
その正体はショコラーデ。
ザールブルグの伝統菓子の一つである。
なぜそのお菓子が今日一斉に作られているかというと、それには確たる理由があった。
ショコラーデは原料となるカリカリの実が絶滅されたと思われてから、長らく作られる事がなかったのだ。
だが近年、このカリカリの実がシュミッツ平原で豊富に採取出来ることが判明した。
それに商工会が目をつけたのだ。
錬金術の街として有名になりつつあるこの街の新たな名物にしよう、と考えたのである。
とは言え、名物ですと街を訪れた人間に売りつけても、それは名物には成り得ない。
まずは地元の人間に定着させようと、ショコラーデ祭りなるものを開催したのだ。
実は単純に日頃の感謝を込めて気持ちと一緒にショコラーデを贈ろうと一大キャンペーンを繰り広げたところ、なぜか日頃の感謝が恋心にとってかわられ、かくしてショコラーデ祭りはうら若き乙女達の決戦の日に相成ったのである。
半ば引きずられるようにして飛翔亭に入ってきたクライスは、見るからに不機嫌だった。
彼が引きずられる相手は大概、金の髪をした錬金術士と相場が決まっているのだが、今回は違った。
色彩的には似通った頬に傷のある冒険者だった。
ルーウェンがクライスに対してそんな暴挙に出るのは珍しい。
よほど勝算があるか、女性陣の総意というある意味、クライスの反撃よりも厄介で質の悪い圧力に屈しているかだ。
「それで、マルローネさんに関する重大な用件とはなんです」
眼鏡を押し上げて放たれたクライスの第一声に、女性陣の圧力だったかと、ディオは哀れむような視線をルーウェンに投げた。
ほんの少しだけ苦笑いをしてルーウェンは声をひそめた。
「マリーがショコラーデを作ってるらしい」
「そうですか。それが何か?」
一瞬ぴくりと反応したものの、素っ気ない返事をするクライスに、ルーウェンは困ったように頬をかく。
「そうですかって…。気にならないのか?」
「何を気にしろと?」
苛立ったように睨みつけられ、ルーウェンはますます困ったような顔をする。
だが彼はここで退くわけにはいかない。
こんな中途半端なところで退いたら、クライスにボロクソに言われ、女性陣にはズタボロにされる。
まさに踏んだり蹴ったりの運命が待っているだけだ。
こうなったら女性陣の攻撃くらいは避けたい。
「なんて言うか…マリーが自分からこんな行事に参加するなんて、珍しいと思ってさ。 まぁ、その…マリーもいい年だし、ショコラーデをやる相手くらいいても不思議じゃないんだけどな。エリーの話じゃ、嬉しそうに作ってるって言うし、誰に作ってるのか気にならないか?」
しどろもどろに切り込むと、クライスは一瞬、うろたえたように目を泳がせる。
だが懸命に内心の動揺を押し殺しているのだろう。
不機嫌そうな表情を変えぬまま、何やら考えこんでしまう。
重い沈黙にルーウェンが根を上げそうになった頃、クライスがようやく口を開いた。
「あの人が誰に差し上げようと興味はありませんね。ただ、あの人の事ですから、もしかしたら売るつもりかもしれませんねぇ」
前半こそ声が裏返っていたものの、後半はいつもの調子を取り戻していた。
だが、自分に言い聞かせているようにも聞こえるのは、けして気のせいではないだろう。
「売る?」
「ええ。誰もがショコラーデを作れるわけではありませんからね。ショコラーデを専門で作る店も何件かは出来てはいますが、それほど多くありません。この時期だけのにわかショコラーデショップとして、稼ぐ気だと思いますよ」
眼鏡を押し上げながら説明された内容は確かに利に適っている。
マリーならいかにもやりそうである。
思わず納得しかかり、ルーウェンは当初の目的を思い出し、慌てて付け加える。
「でも、エリーの話だと、売る気はないみたいなんだよなぁ」
ルーウェンの落とした爆弾に、クライスの顔がさっとこわばる。
血の気が失せた顔で目をさ迷わせ、しきりと口元に指を持っていく。
それでもなんとか平静を保っているつもりなのだろう。
それならあげる予定があるのだろうと、掠れた声で言い捨てる。
明らかに打撃を受けてヨロヨロとしている様子に、飛翔亭のマスター達は、自分がその対象になる可能性は考え付かないんだなと、哀れみをこめて見るのだった。
あまりに涙を誘うその様子に、ルーウェンが助け舟にならない助け舟を出す。
「ひ、日頃の感謝で配るのかもしれないし…。もしかしたら、クライス、お前も貰えるかもしれないぞ」
ルーウェンのフォローに、クライスは口の端だけで笑った。
「何があっても、あの人は私にだけは寄こしませんよ。仮にくれるとしたら、中に怪しい薬が仕込まれてると考えるべきでしょう」
あまりに悲しすぎるその言葉に、同情と共に普段の自分の行いに多少の自覚はあったんだなと変な納得をしてしまうのだった。
打ちひしがれた様子にどう声をかけるべきか、すでにその言葉を見つけられなくなったルーウェンの代わりに、クーゲルがカウンターからクライスを呼ぶ。
頼まれた酒が手に入ったからと酒瓶を押し付け、飛翔亭から送り出してやるのだった。
クライスに酒という組み合わせに少し不思議そうな顔をしていたルーウェンに、錬金術の材料にするらしいと肩をすくめてみせた。
その日の夜、マリーがショコラーデを抱えてやってきた。
「これ、皆に。日頃の感謝を込めてね」
片目をつぶって、小さな包みを皆に配る。
中には丸っこいショコラーデが3粒ほど入っている。
「わ~。あたしもいいの。ありがとう」
ミューがご機嫌で貰ったばかりのショコラーデを、ぽいっと口の中に放り込んだ。
その瞬間、ミューの顔が七変化する。
「なに、これ~!!!」
悲鳴に近い叫びを上げたミューに皆の視線が集まる。
瞳だけで事情を説明するよう語りかける。
ミューはワインで口の中を洗うようにして、ようやく一息ついた。
「マリー。このショコラーデ、辛いよー」
涙目のミューに、マリーはあははと豪快に笑う。
「そりゃそうよ。おつまみ用のショコラーデだもん」
「おつまみ用?」
「うん。お酒に合うように甘くしてないんだ。これが生姜で。こっちがチリパウダー入り。そしてこれは塩を効かせたキャラメル入りね。カリカリの実の風味が効いていて、けっこう美味しいでしょう」
マリーの言葉に、どれもショコラーデに入れるもんじゃないだろうとツッコミを入れつつ、怖いものみたさに貰った人間が次々にショコラーデを口に放り込む。
なるほど、普通のショコラーデとは一味も二味も違うが、これはこれでなかなかいける。
酒のツマミには意外なほどよく合う。
「ほぅ。コレはなかなかいいな」
「でしょ。何事も新規開発は大事よね」
クーゲルが満足そうに呟くと、マリーが嬉しそうに頷く。
「ワインよりも火酒にあうツマミだな」
クーゲルの言葉に、マリーがまあねと気のない返事をする。
そういや、さっき、クライスが持って行ったのは、割といい火酒じゃなかっただろうか。
ぼんやりとそんな事を考えていると、チリパウダー入りのショコラーデを気に入ったらしいダグラスがにやりと笑う。
「そういや。これ、あいつにもやったのか?」
「え?クライス?ここへ来る前に、あげたわよ。後でねちっこく文句言われても嫌だからね」
ふんと鼻を鳴らしたマリーの頬は、ほんの少しだけ赤かった。
クライスがワインより火酒を好む事は、あまり知られていない。
だからこのショコラーデの真の意味を知る人間は、ほんの一握りだけ。