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頑張って「風待草の香る夜」を甘々話にしたのだから、そこで終わっておけばいいものを・・・やはり書かずにおれない、こちらのオチ(待て)
ふー、すっきりした。
やっぱりK氏はこうでなくっちゃ(←オニ)
前編は共通で後半より分岐です。
+++++++風待草の香る夜(別バージョン後編)++++++
※工房の読みきりにある前編からの続き
「水筒にお湯を入れたら、そりゃ、確かにその時は温かいけどさ。すぐ冷めちゃうもの。湯たんぽの代わりにはならないわよ」
毛布が欲しい、湯たんぽが恋しい、と呻くマリーに、クライスは小さくため息をついた。
確かに今夜は真冬並に冷え込んでいる。
ここ数日が暖かった為、マリーはもちろん、クライスも軽装で来てしまっている。
何とかする必要があるだろう。
水筒を代用した湯たんぽも、ないよりはマシなハズだ。
諦めて簡易湯たんぽを用意しよう、と腰を上げかけた時、クライスはその呟きを耳に留めてしまった。
「湯たんぽ…あるじゃない。生きたヤツが…」
「マル…ローネさん?」
ひどく嫌な予感と共に恐る恐る視線をやれば、満面の笑みが向けられる。
「クライス。こっち、来て」
おいでおいで、と犬や猫を呼ぶように舌まで鳴らして手招きをされる。
「な…何を考えているんですかっ?!」
「もちろん、人間湯たんぽ。水を汲みに行く手間はないし、いつまでも温かいし、バッチリじゃない」
「ど…どこがバッチリですかっ?!嫌です。わ、私は護衛として雇われたのであって、湯たんぽとして雇われたわけではありません!お湯を沸かしてあげますから、バカな冗談を言うのはおやめなさい」
必死の形相で訴える後輩の言葉を、マリーはいともあっさりと一蹴する。
「冗談なんかじゃないわよ。本気よ。だから水筒はいらないわ。絶対にあんたの方が、水筒より温かいもの。なんでそんなに嫌がるのよ」
「き、決まっているではありませんか。天幕を張っても、その中から転げ出るような寝相の持ち主と、共に寝たいなどと思うわけがないでしょう。起きたら青痣だらけなんて御免です」
「大丈夫よ。今日は寒いからそんなに転がらないわ」
「そんなにって…やっぱり転がるんじゃないですか」
「うるさいわね。あんたが来ないなら、あたしの方から行くわ」
肉食獣が獲物を狙い定めたような光を瞳にたたえ、マリーは毛布ごとゆらりと立ち上がる。
「わ、わかりました。も、毛布を譲りましょう。だからおとなしく寝て下さい」
体に巻き付けていた毛布を引きはがし、マリーへ放る。
骨まで滲みそうな冷気が一気に押し寄せてくるが、毛布を惜しんで苦境に立たされよりはずっとマシである。
寒さを少しでもやり過ごそうと両腕で体を抱き込むように体を丸め、マリーから間合いを取るように後退る。
だが一度狙いを定めてしまった金の獣は、獲物を逃がす気はないらしい。
「あたしは中身入りで欲しいのよ。あんたも、これ一枚しか持ってないんでしょ。風邪ひくわよ。諦めておとなしく人間湯たんぽになりなさい」
言うが早いか、素早く飛び掛かった。
夜の森に、哀れな断末魔が響くのだった。
かくして人間湯たんぽを手に入れたマリーは、がっつりとしがみついたまま、気持ち良く夢の世界へ旅立つのだった。
そして夢路に旅立てない男が一人、身動きも取れずに鮮やかすぎる世界の中で、すぐ傍らにある無視出来ない熱を感じながら、枕がわりの袋を涙で濡らすのであった。