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バレンタインの小話を考えついたので、こちらにアップします。
突貫なので、ちょっと読みづらかったらゴメンなさい。
※ノルxアイ前提の小話です。
+++ショコラーデの行方+++
「クライス、入るわよ」
声をかけると同時に扉を押し開けたマリーは、いきなり吹き付ける北風とそれにも負けぬ甘い匂いにたじろいだ。
「うわっ。なに…」
思わず漏れた声に、部屋の主が律儀にため息混じりに答えを返してくる。
「賄賂と嫌がらせの集合体です。どうやらアカデミーの女子生徒は、こんな物で単位を貰えると思っているようですよ。まったく、この労力を他の事に回していただきたいものです」
部屋に入った瞬間に視界に飛び込んできた、色鮮やかに包装された小箱の山からは確かに甘い匂いが立ちのぼっていて、家主がこの寒空にもかかわらず窓を全開にした理由を明白に物語っている。
「匂いにやられるよりは、寒い方がマシってわけね」
甘ったるいくらい甘い匂いの充満した部屋に、この匂いに敏感な男が居れるわけがないのだ。
ほんの少しだけ同情を込めて言えば、肯定するようにもう一度ため息をつかれる。
「そんで、コレ、どうするつもりなの?」
ショコラーデの小山を指せば、ひどく不愉快そうに眉が寄せられる。
「もちろん、今日明日中に全部本人達へ返します」
「へ…返すの?だったら始めから受け取らなきゃいいじゃない」
「私は一つも受け取っていませんよ。直接渡されそうになった物は断りました。コレらは勝手に置いていかれたのです」
「はぁ…なるほど。でも、誰からか分かるの?」
「カードが付いているでしょう。名前が分からなければ、賄賂の意味はありませんからね」
至極あっさりとした返事にマリーは納得したが、彼女の後ろに立っていた人物は小さく首を傾げた。
「賄賂的意味合いの物ばかりとは限らないのではないでしょうか。そう言った物には、名前が書いてない物もあると思いますわ」
マリーの後ろに控え目に立っていたアイゼルへ意外そうな視線を投げてから、クライスは調子を取り戻すように眼鏡を押し上げた。
「そう言った物は嫌がらせの類でしょう。どんな危険物が仕込まれているか分からないですから、破棄してしまっても構わないでしょう。ですが、特定できる物は特定して本人にきちんと返却しますよ」
クライスのさも当然、と言わんばかりの発言に、アイゼルは呆気取られる。
アイゼルは賄賂以外の物、本命やら日頃の感謝を込めた物など善意から出た贈り物のつもりで言ったのに、この目の前の先輩は、賄賂以外は全て悪意からの嫌がらせ的贈り物と決めてかかっているらしい。
いっそそこまで断定できるのは天晴れと言えるかもしれない。
しかし、それを確信出来てしまうような、心が冷え冷えとしそうな日常生活は、間違っても送りたくないものだ。
返す言葉もなく立ち尽くしたアイゼルとは逆に、マリーはまたもその言葉をすんなりと納得したらしい。
そこは人間として納得してはいけない、等と言う良識は、この二人の前では忘れ去った方が賢明なのであろう。
「特定するって、どうやって?」
「もちろん、成分分析をかけるのですよ。私の授業を受けている生徒なら、調合の癖で大方の特定が出来ますからね」
「…あんた、わざわざそんな手間かけてまで返すわけ。犯人はお前だ、って言いたいわけね。本当に嫌味なやつね」
じと目で睨むマリーに、クライスは心外というように頭を振る。
「失礼な事を言わないで下さい。差出人不明の物だけを調べるわけでは有りません。全て公平に成分に分析にかけ、品質、効力なども考慮に入れて採点した上で返却します」
バレンタインのショコラーデは、授業の提出課題ではありません。
そんな言葉が喉まで出かかり、アイゼルは複雑怪奇な顔でそれをなんとか飲み込む。
冗談などではなく、正真正銘本気で言っているのが見て取れるだけに、これを送った生徒達の事を考えると涙が零れそうだ。
「それで、今日はなんの用です。私はコレの採点作業があって忙しいですから、数日は採取に付き合えませんよ」
クライスの言葉に、マリーがハタと思い出したように手を打つ。
「そうそう、危うく用件を忘れる所だったわ。あんた、今夜、ノルディスを呼び出しているんですって」
「ええ。コレの採点の手伝いをしていただく予定になっていますが。それが何か」
「大有りよ。ノルディスは今夜、アイゼルからショコラーデを受け取るって言う、大事なお仕事があるのよ。あんたが貰った義理とか賄賂とか…って言うヤツじゃなく、本命ってヤツをね」
腰に手を当てて偉そうに踏ん反りかえるマリーに、そこまで言わないでください、とアイゼルが慌てて止めに入る。
羞恥で顔を真っ赤に染めながら、バカにされるか一蹴されるかするのだろう、とアイゼルは恐る恐るクライスの様子を盗み見る。
すると一瞬だけ、不思議そうな顔をした後、ひどく納得したように頷いたのだ。
「なるほど。では、仕方がありませんね。一人で採点出来ない量ではありませんし構いませんよ」
そう言って、さらりとメモに書付けをし、マリーへ放る。
「わわわ…いきなり、なにっ?」
取り落としそうになりながらも、すんでのところで拾ったマリーが目を白黒させれば、クライスは詰まらなそうに肩を竦める。
「事務室の人間にそのメモを渡して下さい。ノルディス君の呼出しを取消す旨が書いてあります」
「へ…なんで?そんなまどろっこしい事をしなくたって、直接、あたし達がノルディスに言えば済む事じゃない」
「ふぅ。相変わらず思慮と常識の欠如した方ですね。こういう事は、きちんと手順を踏むべき事なのですよ」
クライスの憎まれ口に、納得のいかないマリーが柳眉を逆立てて応戦しようとするのを遮るようにアイゼルは大慌てで礼を言う。
突然の礼に虚を突かれ、毒気を抜かれたマリーの腕を無理矢理引っ張る。
「ええっ。アイゼル…?ちょ…どうしたの」
戸惑った声を上げるマリーを無視して、直線的に動くのを苦手とする先輩らしい気遣いに感謝しつつ、アイゼルとしては異例の強引さを持ってクライスの部屋を後にした。
扉の外でどう説明すべきか、少し思案したアイゼルは、ふとマリーの手が空っぽなのに気付く。
確か入る時までは、小さな包みを持っていたハズだ。
その視線に気付いたマリーが、悪戯っ子の笑みを浮かべた。
「えへへ、ちょっと、お手並み拝見、ってとこかな」
打算と悪意だけでは、けして作られていないだろうショコラーデの小山に、こっそりと足された気持ち。
マリー曰く、義理という名の日頃の感謝を込められたショコラーデは、微妙に性質を変え、挑戦状となりつつあるのは見てみぬフリ。
一応、きちんと届けられただけでも良し、としよう、とアイゼルは心の中で呟く。
なにせ、彼女はこれから大事な気持ちを届けなければならないのだから。
小さく気合を入れ、メモを片手に、まずは事務室を攻略です、と先輩と共に歩き出すのだった。