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2009/08/17 (Mon)
小話
妄想心をくすぐる素敵なコメントをいただき出来たオマケのお話です。
良かったらどうぞ。
良かったらどうぞ。
日中の暑さが嘘のような優しい涼やかな風が部屋流れ込んでくる。
聞き返そうとしたが、すでにクライスは、早く寝るようにと言い置いて、その場を辞するところだった。
髪を梳いていた手を休め、マリーはそっと息を吐き出した。
母親譲りの金の髪は、彼女にとって密かな自慢だった。
グランビル村にいた時は、お日様の光を溶かしたよう、と妹達には羨ましがられ、姉や母達には「マリーの髪は本当にキレイね」と手入れの方法を事細かに指南されたものだ。
色んな事に大雑把なマリーだが、村を出た今も、髪の手入れだけは教え通り丁寧にしていた。
髪飾りを外した髪を手に取ると、さらりと指の間を滑っていく。
そのまま窓辺に移動して夜風に髪を遊ばせる。
穏やかな時間に身を任せても、心は裏腹に沈んでいく。
色良い言葉を聞けるかと、ほんの少しでも期待してしまった自分がひどく愚かに思えて、もう一つため息を落とす。
「たまには褒めてもいいじゃない」
そんな呟きは夜風に溶けて消えてしまった。
コツ。
コツコツコツ。
静かな夜に低く響く足音はけして大きなものではなかった。
けれど静まり返った夜の街には静かに響く。
足音の主の性格を表す様に、規則正しく一定のリズムを刻みながら近付いてくるその音に、マリーはムッと口を不満げに歪める。
案の定、角を曲がってくる白い影。
角を曲がりきった所で目が合った。
少し意外そうな顔をしながらも、無言で近付いてくる。
マリーも黙って、声を張り上げなくても届く距離に近付くまで待った。
これでも一応、近所迷惑という言葉は理解しているから。
「また…夜に徘徊しているの」
窓の下まで来たクライスに、呆れたように声をかければ、小さく肩をすくめられる。
「人聞きの悪い。あの後、アカデミーに顔を出したのですよ。その帰りです。あなたこそ、こんな時間に何をしているのです」
「気持ち良かったから、夜風に当たっていただけよ」
少しつっけんどんに答えれば、それ以上興味もないのか、今夜は風が冷たいから程々にしておけ、と説教じみた言葉を投げられる。
「言われなくても、もう寝るわよっ」
思わず勢いよく噛み付いてしまい、大きすぎた声に慌てて口を押さえれば、呆れたような冷めた視線を向けられる。
近所迷惑だと雄弁に語るその視線から、バツが悪くなって顔を背けた。
だからマリーはその時、クライスが不意に浮かべた柔らかな笑みを見逃した。
けれど微かに揺れた空気から、クライスが笑った事を感じた。
てっきり小バカにしたのだろう、と臨戦体勢で振り向くと、常とは変わらぬ表情でクライスは立っていた。
マリーが口を開く前に、クライスが言葉を発する。
「あなたの髪はやはり、灯りの下よりも日の光の下で見る方がキレイですね」
中和剤の出来を評価するような調子だったせいで、一瞬、何を言われたのか理解し損なう。
「え?」
聞き返そうとしたが、すでにクライスは、早く寝るようにと言い置いて、その場を辞するところだった。
呼び止める事も出来ず、マリーは呆然とその背を見送ってしまった。
「ふ…不意打ちは…卑怯だわ」
窓枠に突っ伏したマリーの耳は、朱く染まっていた。
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